【Away画作り分析】ストーリーを伝える画作りの科学vol3_視覚的に面白くする10のポイント【映画学】
前回は視線誘導や読み取りやすさについて中心に紹介しました。
前回の記事➡【画作り】ストーリーを伝える画作りの科学vol2_視線誘導の原則・読み取りやすいデザイン編【映画学】 - 好きに生きる
映像づくりにおいて1分の映像でも最後まで見てもらうのは難しいものです。視覚的に楽しませて飽きさせないように見せるにはいくつかのシンプルな工夫があります。
今回は、その視覚的面白さによるストーリーを伝える工夫をテーマに紹介します。
ということで昨日映画館でこちらの作品を見てきました。
全編75分で、セリフのない映画なのですが、それゆえに他の要素の役割が大きくなり、ビジュアル、音、音楽に対してさらに表現力が豊かな作りになっています。
他のすべての要素でストーリーを伝える素晴らしい映画になっていました。
フラットな線やシェイプはイラストレーションのような魅力を漂わせており、パンフレットも買って画集としても大満足です。映像ですがそれほど一枚絵としての魅せ方が巧みでした。
ストーリーを伝えるために、どんな構図や演出になっているのか。
張り詰めた緊張感、絶えず惹きつける理由は何か。
一目で美しいと感じたGints Zilbalodis氏の作品「Away」の絵作りをこのTrailerから画像を引用して私なりに分析・勉強させていただきました。
画の要素を分解してみるといくつかのことが分かってきます。
視覚的に面白くする10のポイント
その1:明瞭なトーン構造
まずどのショットでも明確なのは、必ず絵に主役が存在し、見せたいものがはっきりしているという点です。これの背景にあるのは明瞭なトーン構造です。
学生アーティストが抱えるよくある問題点は、どれも見せたいとそれぞれの要素が目を引いてしまっていることです。
これだと焦点がぼんやりとしてメリハリが無い退屈な絵になりがちです。
輝度でモノクロに変換し、トーンに注目すると絵を構成する主要なシェイプが見えてきます。
細かなシェイプは読み取りにくいため、魅力的な構図は光と影の作用によって3~5個のトーンで区分けされたシェイプにまとまっているものが理想的とされます。
Awayはその原則に則っていますね。
多くのショットは、黒・白・その中間色の3つのトーンだけで構成されています。特にポジティブスペースとネガティブスペースの関係には注目ですが、それぞれの明暗のコントラストが大きいためドラマチックなショットになっており、同時にそこがシーンの焦点になっています。
その2:レイアウト
基本構造は、画面を縦と横で3分割して交点や線にメインとなる被写体を配置する3分割法に近いかと思います。映像として動きますしあくまで目安程度と考えていいと思います。
被写体がよりの方が端に寄りすぎていてはバランスが取れず、あまりそこを見てもらえません。3分割法を意識すると、ダイナミックな動きが生まれたり、奥の背景の焦点と手前のキャラクターとの対比が効果的に生まれて空間を演出できたりといろんな効果が期待できるわけです。
黄金比を使ってみてもいいかもしれません。
■日の丸構図
焦点を中心に配置するシンメトリ構図や日の丸構図はインパクトのあるシーンに使われています。この際、天地を意識し、やや上に空間を作るように配置。これで絵に安定感が生まれます。日の丸構図はアップで映すだけではストーリーを作るのが苦手な構図だと言えるかもしれませんが、空間を広く使うことでシチュエーションやモチーフそのものからストーリー性を感じられる構図になっています。
■対角線構図
被写体が二つ以上あるときはフレームの対角線上に来るように配置することで奥行きを表現できます。テーブルフォトでよく見る構図ですね。距離でぼかしを入れたり空気感を入れることでさらに焦点を作ることもできます。
■放射線構図
以下のショットではパースによる集中線効果で焦点を作っているのと同時に、自然で有機的なラインの質はそのショットで伝えたい最適な雰囲気を表現出来ています。
■三角構図
ずっしりと安定した構図になりますがTrailerではあまり使われてなかったので省略。
■トンネル構図
また、洞窟のシルエットを利用したトンネル構図もいくつか出てきます。
四隅を囲まれたメインの被写体側を明るく、それ以外の部分を暗くすることで被写体に引き込まれるような面白さがあります。
大きな黒い影から逃げ込んだ後、まだ後ろから覗く影。洞窟のエッジがはっきりしていてまだまだ緊張感の感じられるカット。
洞窟の先には同じように影に追われていたであろう人のバイクが放置されていた。この先にあるオアシスへ繋がる出口であるため、希望を感じるグロー掛かった光の演出になっています。
その3:Simple&Complex
多様性に富み、シンプルなシェイプと複雑なシェイプを組み合わせることによって視覚的な面白さを作り出すことが出来ます。
これは様々なショットで使われており、例えば以下のショットでは、物の動きやカメラワークでシェイプに変化をつけています。
最初は丸い月のシンプルなシェイプですが、飛行機の独特なシェイプが被っていくことで変化をつけています。
月の光で落ちていく飛行機の煙のシェイプを浮きだたせています。
こちらも最初はシンプルなラインですが、カメラが動くにつれて複雑な岩のごつごつしたシルエットを見せてやることで、より効果的にそのコントラストが映えて見えます。
カメラワークでつけるだけでなく、物のデザインそのものでも大事な考え方です。
このようにデザインそのものにシンプルな面と複雑な面を入れることにより視覚的な面白さを作ることが出来るわけですね。
例えば平行線は目につきやすく単調で違和感を感じてしまいます。平行線とのコントラストを足すことでより自然で魅力的に見えたりします。
その4:焦点に対するアプローチ
イラストや作画アニメ作品にもある手法ですが、焦点近くはディテールが高くなり、焦点から離れるにつれてディテールが削られていて、目を引く要素も少なくなります。
以下のショットではライティングによって、焦点をコントロールされています。
この場合、ライトが当たっている見せたい個所は複雑にし、逆に当たっていない箇所はシンプルにするアイデアも見られます。中途半端にディテールを残すよりは明度のコントラストを作り、主役が目立ちやすい構成になっています。明快な画のため退屈せずに視聴できるのだと思います。
上の画像は孤島にある荷物を見つけるショットですが、スポットライトのような指向性のライトを当てるだけでもドラマチックな印象を与えたり意図した焦点へ視線を誘導をすることが出来ます。
また、視覚的面白さとは多様性です。もしここで赤で示した光のシェイプ分けが無ければキャラ(主人公と猫たち)の位置関係性が埋もれてしまっていたかもしれません。
ほぼ同じトーンでまとまった絵の場合はトーンが一色にしか見えずフラット過ぎる絵になり退屈なカットになりがちです。その場合はライトを当て影を落とすといったライティングで多様性のあるシェイプにしてやることでも解決するはずです。
その5:雰囲気を伝えるシンプルなシェイプ
2つか3つのシンプルなシェイプで構成され、余白を活用した絵はエモーショナルな雰囲気を表現するのに素晴らしい効果を発揮します。雰囲気や感情を伝えたい時は、要素を間引き、わずかな情報量にまで落とします。
こうすることによって鑑賞者に感情に浸る十分な時間を与えられるというわけです。
その6:物語を色で伝える
色にはいくつか役割があります。物語、感情、シーンのムード、作品のスタイル、そして飽きさせない、疲れさせないことです。
例えばオアシスのシーンでは緑色を基調とし、まさに自然さというイメージを感じさせる色。鏡の湖のシーンでは水色を基調とし、一度目の試練を乗り越え、希望のある旅の始まりを感じさせるような雰囲気。
相棒の小鳥と別れたシーンの直後では暗くどんよりとした引きのショットから始まります。同じ構図で何枚かシーンが切り替わり徐々に感じられる感情も変化してきています。
画面に絶えず惹きつけるために、何度も画面転換するという手法も使われています。
表情を変え続ける自然は、視覚的に刺激をもたらします。
その7:量のインパクト
密度があり、絵にインパクトを与えることが出来ます。群衆には圧倒する力があります。
しかし、ただ詰めると窮屈な印象を与えかねません。そこで、ネガティブスペースとポジティブスペースの隙間を作ることによって絵に抜け感やストーリー性が感じられています。
その8:遠景・中景・近景の遠近感
前景、中景、遠景の三層にはっきり分かれた構図はその区別ない構図よりも読み取りやすく、絵的な面白さも増します。
情報量を増やし、ストーリーの補助を強める役割を持ちます。
さらに各層の明度(空気感)やピント(DOF)の変化をつけることでも見た目の面白さが上がります。
アニメ用語でBookと呼ばれる前景に重ねる素材をAE上で配置し情報量を上げる手法は奥行きにリズムが出て絵の面白さがあります。 トーンが不明瞭でどこ見ていいか分からないフラットな絵になってしまってワンポイント足したい時は奥行きを足してみることで面白くなります。
その9:感情を伝える対比
主人公との対比を描くショットが多くありますが、サイズの対比があると強烈な絵の印象になります。
巨大な黒い影との対比であったり、大自然との対比であったり。構図の雰囲気に大きく影響します。
この時ネガティブシェイプを支配的にするかポジティブシェイプを支配的にするかでも絵の印象は全く違うものになる。例えばどんよりした空が雲一つない青空だったら真逆の印象を与えていたことでしょう。
その10:想像力~ストーリーの連続性~
実写と違い、CGやアニメは製作者が入れようとした結果そこに存在します。正しい意図を持って配置できれば、作品以上の価値を伝えることができるでしょう。
主人公がこの物語が始まる数分前に何をしていたのか、何に興味があるのか、過去や未来を想像できるようなアイテムを配置しておくという工夫が世界観を補強するのです。
ポイントとしては、そのカットを見て過去や未来を想像できるかどうかです。
例えばこの映画の冒頭はドリーインで始まるショットです。砂煙の中から現れる影。何かしらのトラブルで空から落ちてきてパラシュートが引っ掛かったということが読み取れます。
歩いていくとすぐに孤島であることも明らかになります。壊れた飛行機。主人公が事故にあったものと推測できます。
ここからは少し本編の考察をします。大丈夫な人は反転してください。
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Trailerにはありませんでしたが本編の中で、黒い影追われた主人公がさりげなく描いた絵と似たような絵が逃げ込んだ先の洞窟の中にたくさん描かれています。そばには髑髏。
もしかしたら同じような境遇にあった人が同じように描いたのかもしれません。孤島で黒い影に追われてオアシスから動けず亡くなったというバックボーンが見えてきます。そう考えればなぜかこの場にあるバイクやリュックの持ち主も何となく誰か分かってきます。
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絵で主人公のバックボーンや世界観を表現しています。
これこそが何度も見たくなる不思議な魅力の正体なのかもしれません。
相変わらず長い記事になりました。
Trailerだと本編のショットの繋がりじゃないので画作りに関してのみの視覚的に面白くする10のポイントでした。以下の参考書籍等に基づいた分析でしたが、捉え方の一つとして参考になれば幸いです。
因みにGints Zilbalodis監督の過去作品はYoutubeに上がっていて勉強になります。
素晴らしい作品をありがとうございました。
参考になったよという方は、こっちでも作品や情報を発信してるのでフォローよろしくお願いします!
参考
たったひとりでつくりあげた美しい世界。映画『Away』ギンツ・ジルバロディス監督インタビュー | インタビュー | CGWORLD.jp
Vision ヴィジョン ーストーリーを伝える:色、光、構図ー | ハンス・P・バッハー, 平谷 早苗, サナタン・スルヤヴァンシ, 株式会社Bスプラウト |本 | 通販 | Amazon
Jourdan's Top 10 Tips - Linework, Tools and Beyond on Vimeo
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