【画作り】ストーリーを伝える画作りの科学vol2_視線誘導の原則・読み取りやすいデザイン編【映画学】
前回は視覚要素の作用(色の組み合わせ、構図デザインのリズム)、そして関連付け(鑑賞者がスクリーンから過去の記憶を連想する)によって呼び起こされる感情のメカニズムを紹介しました。
前回の記事➡https://yuki-cg-blog.hatenablog.com/entry/2019/12/27/003014
次に映画というメディアにおいて構成上最も重要なことである”読み取りやすさ”について解説していきます。
読み取りやすいデザイン
映像は読み取りやすさを優先してデザインすることが求められます。
普段の作品で読み取りやすさを意識されてるでしょうか?
最後まで見たけどなんだかよくわからなかった。そんな経験はきっとあると思います。ストーリーが難解な物語で何度も見てああそういうことだったのかとカタルシスを感じる作りのスルメ映画もありますが、もしかしたら読み取りやすさという観点で映像そのものの構成が拙いことが原因かもしれません。
映画とはたった数秒のショットに多くのメッセージが詰め込まれています。
何を考えて作っているのか、このショットにはどんなメッセージが込められているのか、それを直接視聴者に明かすことはありませんが、代わりにその隠された沢山の情報を感じ取れるように作り手としてワンショットの構成要素に想いを込めています。
数秒で切り替わるショットで読み取れるとされるシェイプの数はせいぜい3~5個と言われています。そんな中で見せたいものを見てもらうにはどうしたらいいのか。
例えば、1つだけ色がついていたら?たくさんの丸の中に四角いシェイプが混じっていたら?おそらくそこに視線が向かうでしょう。なるべく読み取りやすくこちらで重要度を決めてやるのが大事と言えるのです。
では、具体的にどうすればいいのか。
ここでは映像における視線誘導の原則を5つ紹介します。
この5つの原則を知って活用するするだけで作品の魅力は劇的に変化します。
実際に私が監督を務め制作した映像作品を例に意識したポイントを解説していきます。
視線誘導の原則
以前にもほんの少しだけ視線誘導の記事を少し書きました。
これはほんの一部で視線誘導の方法は実はたくさんあります。大きいものから小さいものに誘導される性質を利用したものや数字の小さい順から読んでいく誘導。似た色を追っていく誘導。ラインを利用した誘導(顔の方向を利用した誘導も含む)etc...
その中で映像における視線誘導の原則は主に5つです。
この作品では絵に主役を作り、ストレスなく自然に焦点をコントロールするためこの5つの点を意識してディレクションしていきました。
❶最大の明度差はシーンの焦点に配置する。
❷キャラクターが動作する周辺にはネガティブシェイプを配置する。キャラクター単体のシルエットはポーズがはっきり分かるようにする。
❸Simple & Contrast
❹ラインやシェイプによる誘導
❺スクリーンディレクション(混乱しない画面構成、アークの繋がりを意識したショット同士の自然な視線誘導。)
この❶~❸までは本質的にはすべて決まった法則に則っています。
それは人間の目は画像内で最もコントラストが大きい領域に引き寄せられるという法則によるものです。コントラストと言っても様々ありますが特に明度差は重要です。それが大きい領域を意図的に配置することで鑑賞者が注目する領域をコントロールできるのです。
例えば上の画像のシーンはこの決まりを守って作ることにより、❶➡主役を作ることが出来て、❷➡アクションがはっきりと読み取れることになるのです。
❸のSimple & Contrastというテクニックについて以下の図で一例を示します。
先ほどコントラストにも種類があるといいました。グラフィックデザインでよく使われるこれらの効果は映像にも取り入れると焦点をコントロールするのに有効でした。
■Simple
➡情報が多すぎると見るべき箇所が散逸します。光、色、音を減らすことにより、情報を整理し、読み取りやすく見せたい所に視線が行くように誘導します。
イラストでもありますが、描き込みの多寡による意図的な情報量の差を作ることでも視線の誘導を行えます。
例えば以下のシーンのように画面内にモチーフが多い場合でも、見せたい箇所のみに色をつけ、何を見せるシーンなのか明確にしてやることで読み取りやすくすることもできます。
■Contrast
➡明度差、彩度差、色相(補色)、ボケ
調和を崩した状態、こういった対比にこそ視線が集まる仕組みになります。
また、環境や状況的な側面によってもコントロールすることが出来ます。
光:闇 古:新 少:多 橙:青 細:太 遠:近
例えるなら真っ暗な中の自動販売機、森の中(自然)の電柱(人工物)。
❹ラインやシェイプによる誘導
絵にラインが見えるとそのラインに沿って視線が誘導されます。ラインの延長線上に見せたい箇所を配置してやることにより印象が際立ちます。
パースが付いた絵では、ラインやシルエットで漫画でいう集中線のような効果が生まれています。
例は前回の記事で➡
【画作り】ストーリーを伝える画作りの科学vol1_視覚要素の作用編【映画学】 - 好きに生きる
❺スクリーンディレクションという考え方が必要になってきます。
一連のショット同士は見てる人が予想できる滑らかな繋がりが必要になります。
そこで、イマジナリーラインの決まりを守ることや、下手(シモテ)と上手(カミテ)の意識(日本は右から左の方向がポジティブ、西洋は逆)をして混乱しない画面構成としなければいけません。連続したカメラワークにおいて意識が必要なところです。
そしてもう一つ最も大事なことがアークの繋がりを意識したショット同士の自然な視線誘導だと思っています。
下の動画をご覧ください。
私たちの視線を追ってみるとショットの終わりと次のショットの始まりがうまく続いてるのがお分かりでしょうか。
視線が右上で終わったと思ったら次のカットでは左下から始まってその次は…となるとバタバタと視線があっちこっち移動してしまい、疲れやすくなってしまいます。
ここを意識するのとしないのとでは視聴者に与えるストレスの多寡が大きく変わってきます。
その点を踏まえて見直してみるとなんかおかしいなと思ったカメラワークの修正点が明確になるでしょう。
実際この吹き飛んだ後続くショットでは、いろんな事情でやむなく見づらいカメラワークの典型のままになってしまっています…笑
もし興味があれば是非フルでご覧ください。
基本的に映像とは見てすぐに何かわからなくてはなりません。多くの作品が失敗してきたように結果的に何かわからねば価値を認めるのは難しいからです。
一枚絵ではじっくり見る時間があります。ところが映画は次のショットにカットするまでのほんの数秒で伝えなければならないため読み取りやすい絵を作ることは他のメディアよりも重要になります。
だから映画のショットはシェイプや色、トーンなどで読み取りやすさを優先してデザインすることが求められるわけです。 努力して読み取るようではメッセージを受け取る暇もなくなってしまうのです。
今回は読み取りやすいデザインについてでした。参考になれば幸いです。
次はストーリーを伝える画作りシリーズのラスト。飽きさせない工夫、視覚的に面白いデザインについて紹介します。
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参考
セミナーやパッケージ販売を通じて認知度を上げていきたい〜マーザ・アニメーションプラネットがいち早く実践する「ストーリーボード」による映像制作とは(後編) | インタビュー | CGWORLD.jp
https://www.youtube.com/watch?v=qeaXSuqphi0
Vision ヴィジョン ーストーリーを伝える:色、光、構図ー | ハンス・P・バッハー, 平谷 早苗, サナタン・スルヤヴァンシ, 株式会社Bスプラウト |本 | 通販 | Amazon