【画作り】ストーリーを伝える画作りの科学vol1_視覚要素の作用編【映画学】
全ての画像には心理作用があり、科学的な定義が存在します。
プロの作る画とはそういう作用を利用して一枚一枚意図がある絵を作り出しています。
プロになるならその作用について理解し利用することで私たちも意識的に安定したクオリティを出していかねばいけません。
その方法を映画というメディアにフォーカスして解説していきたいと思います。
何となく作っていいものが出来たとして、やはりそれは偶然でしかありません。自分が正しく理解してなければ、次も同じクオリティを求められたときにその期待には応えることが出来ず、スランプに悩むことになるかも。。。
どういう意図を持ち、どのような作用を期待して選択をしていったのか、かみ砕いて説明できなければ別の状況に置かれた時、再び同じ成果は上げられないでしょう。この偶然の結果を必然に変えるメカニズムが必ず存在するのです。
感情を引き出すデザイン
さて、この画像ですが、一見してどんな感情が想起されたでしょうか。
チェルノブイリという海外ドラマの印象的なショットをフォトショで単純化しています。
優れた構図は何がどうなってるのか理解が早いものになっており、うまく視線誘導されて主役に目が向きますね。見たことがない人でもストーリーが見えてきます。
構図に注目すると、煙がもくもくと立ち上り、ハイキーのトーンで纏められてる中コントラストが強すぎるわけでもないのにこの印象的なカットではラインと明度の対比でうまく煙へ焦点が誘導されてる感じです。
この画像を見て不安に思った人は以下の二つの理由でそう感じさせられたのでしょう。
①視覚要素の作用(色の組み合わせ、構図デザインのリズム、引き出したい感情を意識したカメラワーク)
②関連付け(鑑賞者がスクリーンから過去の記憶を連想する)
1つ目の視覚要素の作用か、あるいは2つ目のモチーフそのものからの関連付けです。
画像は鑑賞者が理解する前に自動的に何らかの感情を呼び起こします。喜び不安恐怖興奮などです。そのメカニズムを次に紹介してみようと思います。
ここをしっかり理解できれば何故そう感じたのかその知識を利用して同じ感情を引き出し、響く絵を作り出すこともできるわけです。
①要素の選択
まずはデザイン面から鑑賞者に与える印象のメカニズムを紐解いていきましょう。
画像に含まれる15個の視覚要素
映像業界のレジェンド、ハンス・P・バッハー氏の分析によると、画像を視覚要素で分解してみると15個に分けられます。
この15の要素を埋めていくことにより何を伝えたいのか明瞭になり、深みがある退屈しない絵を作ることが出来るわけです。
それぞれの要素ごとに意味があるか、改善できないかをチェックしていきます。
それぞれの要素について、こうすればこういう感情と結びつきやすいという作用が存在します。
これらについては先ほどの画像で分析していきましょう。
ライン
原則、画には支配的な要素を作ると視線誘導がスムーズで良いとされています。このラインで主役に視線を集めることもあります。これは後述する明度でもコントロールします。映画においてはたった数秒のカットで何が起きたかを伝えなければいけないため、読み取りやすい絵を作ることは重要なのです。
ラインの特徴として大きく分けて二つあります。
①ラインの質
一例として
太い➡力強い
細い➡繊細
直線➡無機的
曲線➡有機的
性質を利用し、本質的な雰囲気や環境のある側面を強調することが大事です。
②ラインの方向
主となるラインの方向はシーンのエネルギーに大きく影響します。
一例として
垂直➡強さや気品漂う。
斜め➡ダイナミック。崩れたバランスと動感。
水平➡穏やかで静かな雰囲気。
と言った印象になります。
どんな場所も方向があり、環境にあった方向を統一させることにより印象を強調させ、その環境の特徴を強く打ち出すことが出来ます。
例えば街や森は垂直方向、ビーチや田園地帯は水平方向に広がるように感じられるように、イメージを外さないことが違和感を与えないことに繋がります。
同じ強さのラインがばらばらの方向にあると雑多な印象になるので意図的でない限りなるべく統一するのがベター。ただし適度なコントラストを入れることでドラマが生まれ、視覚的面白さが増します。
ネガティブスペースとポジティブシェイプ
白い箇所がネガティブシェイプ、黒い箇所がポジティブシェイプと呼ばれます。
ポーズも大事で、自分の体の隙間のネガティブスペースを無くし、シルエットにしたときにただの黒い塊になってしまっていては動きが読み取りにくくなってしまいます。
ポジティブシェイプとネガティブシェイプに分けたときシルエットのグラフィックで見ているものが何か分かるようになっていないといけません。ネガティブスペースとの境界をはっきりさせることでコントラストを強調し主役を作ることが出来ます。
映画は一枚絵と違い動きがあります。この時読み取りやすさを意識して、人物の後ろにネガティブスペースを配置することで二つのコントラストが強調されアクションをはっきり見せることが出来ます。
シルエット
チェックポイントとしては前後に重ねても読み取れるか?シェイプは調和しすぎてないか?といったところ。
視覚的な面白さで大事なのはシェイプのシルエットのバリエーションです。これを増やすだけで、視覚が刺激されずっと魅力的になります。
対比を利用することで、意図的に主役を作ることが可能です。例えば背景に四角のシェイプを多数配置した場合、その中で目立たせたい丸のシェイプを配置することで主役に格上げされたりします。
明度
フレームの明瞭さや雰囲気に最も影響するのはベースのモノクロ構造であり、色ではありません。映画の構図は読み取りやすさが重要です。この画像のように同程度の明度をグループにまとめ、3~5個のトーンのシェイプに単純化することで一瞬で捉えられるくらいの情報量にまとめることが出来ます。
明度には感情が伴います。
明るい➡純粋さ、平和、神々しさ。
パラノイアのようなイメージにはいきすぎたくらいの白でも面白いかもしれません。
暗い➡危険性、ドラマ、恐れといった感情に訴えるのに最適。
魔法やロマンスのような謎めいた雰囲気を表現するのにも効果的ですね。
コントラストが高い➡ダイナミック、ドラマチック、緊張も高い
コントラストの低い➡ずっと穏やか。優しくソフトな雰囲気。
又、視線には法則があり、明度差によって視線をコントロールします。大事なところなので次回以降詳しく書こうと思います。
パターン
規則的なパターンは整然され退屈な絵となり、機械的な印象を与えます。
逆に不規則なパターンは自然で緊張感を生みます。
動き
映像作品である以上、動きが存在します。
キャラやカメラが動くときは、移動後の構図でも最大の効果が発揮できるようにフレーミングを調整しましょう。
弱い存在に見せたいなら俯瞰、大きく見せるならあおり、クイックパンで躍動感だったり、プルフォーカスで視線のコントロールをしたり出来ます。
光
光の質は以下の二つに分けられます。
①ソフトライト
拡散されたり反射を繰り返した光で、影が柔らかな輪郭をもって浮かび上がります。
例えば太陽が沈んだり雲などで隠れているとき、霧や布を通過した光は広がって見えます。
朝の静かさや、被写体の柔らかさを伝える演出の際に適しています。
余談ですが陰影がゆっくりと入っているため、コンポジットの際コントラストを高めるのも容易に行えます。
②ハードライト
太陽や、スポットライトなどの方向性がはっきりしていてくっきりした小さな点が光源になる直接光で、影が堅く明部と暗部がはっきりと分かれます。
くっきりした影はシーンを複雑にし、立体感、ドラマチックさ、恐怖や緊張感の強調などの演出に適しています。
その他光源は?時間は?季節は?天気は?光の方向は?
その時の条件下でその性質は様々な変化をもたらします。伝えたいストーリーによってその選択を行っていくわけです。
奥行き
前景、中景、背景の三層にはっきり分かれた構図はその区別ない構図よりも読み取りやすく、絵的な面白さも増します。各層の明度の変化をつけると見た目の面白さも上がります。
伝えたい感情を含めてやることによってより説得力を持たせたショットをイメージしやすくなります。
先ほどの画像のような所謂見せショットにはこういった視覚要素を埋めていくことが欠かせません。
例えば田舎の何もない中にポツンとある自販機の面白さを表現したい場合、
- 明度のコントラストを高めて焦点を作るかなとか
- ネガティブシェイプとポジティブシェイプの割合を意識して自動販売機のシェイプをドラマチックに演出しよう。とか。
- 環境は穏やかさをイメージをさせる横方向の調和した曲線を多用した有機的なラインを中心に自然を強調する中、メインの自販機だけは機械的な四角いシェイプと垂直のラインで対比させようとか。
- 被写体は自販機全体ではなく、自販機に群がる虫にする。さらに自販機より虫にフォーカスして他をぼかし支配的な構図にすることにより印象的で熱い夏の日だというメッセージを感じられる構図になるのではないのか。とか
伝えたいメッセージやコンセプトを深めるといろんなイメージが浮かびます。
陽気にしたいのか落胆にしたいのかでイメージは180度変わります。その場合ロウキーがハイキーになるし、ハードライトよりもソフトライトの方がふさわしい場合もあるでしょう。陽気さを大きな動きで表すなら落胆は表情で感情を表したい。とすると顔のフレーミングはクローズショットかもしれません。だからこそまずは何を伝えたいかというところをはっきりさせていかないといけません。
POINT
視覚要素の作用 ( 画像の与える心理作用 ) を理解し利用すれば意図のある絵作りになる。
次に関連付け(鑑賞者がスクリーンから過去の記憶を連想する)による感情のメカニズムについて。
②関連付け
記憶と感情はリンクしています。感情を伝えたければそう感じた瞬間の記憶を連想させることでシーンのビジュアルと感情が一致した響く絵を作り出すことが出来るようになります。
◆お気に入りのソファでココア片手に読書
➡平穏で穏やか
◆ビーチで過ごした休日
➡暖かい砂とひんやりした水はリラックスの代名詞
◆暗い路地を歩いたこと
➡ぼんやりとした形は恐れや疑いを呼び起こす
つまり記憶と感情はリンクしているということ。
鑑賞者は過去に見た類似シーンの記憶から特定のことを想起し同じことが起きると期待している。
そのため画像内のシェイプ、色、光、モチーフを選択するときにシーンにより関連深いものを選択することが求められるわけです。
何となく設置するのではなくバックグラウンドや伝えたい感情は何かを意識してプリビズを進めていくのがいいのかもしれません。
POINT
要素と感情の関連付けを利用すると強い印象を与えられる。
構図に物足りなさを感じたら何を伝えたいかを見直してみると今より響くものになるかもしれませんね。
ここでは原則を書きましたが、結局意図したことであればこれらは無視しても構わないんです。原則を熟知したうえでの例外には力があるからです。唯一の正しい方法は存在しません。ただし必然性があってそうなったものと、何となくそうなったものとでは大きな差があることは確かなのです。
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