視線誘導とレイアウトとコスト管理
映像においての視線誘導の原則に興味ある方はこちらの記事でも書きましたのでよろしければどうぞ。
先日学生の人気投票という形で学内コンテストがありました。
テーマは時計のデザインポスターとフォトリアル化粧品。
その際視線誘導とレイアウトについて理論的に解説してもらったので納得な添削アイデアをシェアしていきます。
まずは時計ポスターですが、結果は構成力賞。
改善の余地が大きい点として三つあります。
①視線誘導を意識する
パッと見て綺麗だけど印象に残らない。
これは視線誘導が失敗しているということ。
例えばキャラクターが描かれている作品では、キャラクターの目線が向いている方向に読み手の視線も誘導されるというルールがあります。
そしてこれは無機物であっても同じことが適用されます。
つまりこの時計をメインキャラクターとして考えた場合、時計の目線の方向、つまり、真っ先に画面外に視線が誘導されてしまうわけです。
こうなるとサブキャラクターであるマグカップや本に視線がいかないわけですね。サブキャラクターを引き立てることも画の印象を挙げるポイント。
あと、下半分を隠しても構図として成立してしまうところもBAD。文字入れて多少ごまかしましたが、本来全体をカバーしないといけないというわけです。
②画の話の前後を想像させる
シナリオがあるならその整合性も考えればよりシナリオを想像できるようになります。この場合珈琲を飲んで、本を置いてそのまま明かりをつけたまま目覚ましを付けずに寝てしまったという設定だったのでそうなると時計の位置を奥に持ってくるべきだったかも。
③これを見た人に何を伝えたいか
どういう感情を持ってもらいたいかという視点がまず構図を考えるうえで必要になるとのこと。今回、映画のようなワンシーンを切り取ることを意識して、露出を上げたティール&オレンジのカラコレで映画っぽくを意識して制作しましたが、欲しい。可愛い。触りたい。そういう感情を引き出す魅せ方があり、どこを見てほしいかによってスポットライトを浴びせるポイントが変わるのです。
因みに余談として、最もクオリティに直結するのは明度差だと思います。人の視線は明度のコントラストに集中します。ハリウッドのワンカットとか明度も色相もコントラスト強いから目を惹く作り方になってるわけです。
更に蛇足。時計デザインポスターとしてはモチーフの時計の選択もらしくない。これはポスターにするということを考えるとそもそも値段が安すぎるモチーフはポスターにしても利益を還元できないためである。
次に化粧品、結果は受賞ならず。
①視線誘導の失敗
薄目を開けて見た時一番目立つところはどこか、これもやはり明度のコントラストの強いところです。つまり、右下の瓶が一番注目されます。本来中央の瓶を目立たせたいところが、下に敷いた紙の白さと瓶のコントラストでこちらの方が目立ってしまっている感じ。逆に言えば目立たせたいところにこの失敗を応用すればよいわけですね。
それに少しハイライトが白飛びしているのが悪目立ちしてしまっています。
横文字の入る場合視線の方向は中央→左上→右上→左下→右下という順になるのが自然です。この場合視線を強引に持っていかれて上半分をカバーしきれておらずやや印象が薄くなりがちです。
中央の瓶の輪郭が暗くなっているため、もう少し浮きだたせるようにリムライトを入れてライティングするとよくなりそう。
②テーマの不一致
紫が多すぎると少し品がない印象が強くなるため、大人というより色気を連想させる。さらに高級感をテーマと考えるなら、机の上というのでは状況的に客層が異なる。この場合は一般的な客層となる。高級感を出すならごちゃごちゃと沢山のものを並べるより、少なめの数で場面も非日常感を演出してやるのが良いかもしれません。
③無駄なコスト
実験的に、透過物、被写界深度、ディスプレイスメントマップ、SSS、Atmosphere、4kテクスチャという重たい処理をフルコースで試した感じ。その割にレンダリングコストだけが残った感あります。そのせいでノイズも解像度も低いままでレンダリングせざるを得なかったので失敗。
レンダリング時間が減らせれば何度もトライ&エラーが出来るのでこれらのコストは最終的に不要でした。大きく結果が変わらないところにレンダリングコストがかかるのは生産性に欠けるので、本当に必要なところに大きくコスト掛けたほうがいいでしょう。
紙だから微妙な透け感が欲しかったのですが、背面から強くライトも当たってないのにラベルにSSS使うのはあまり意味なかったり、Atmosphereも同様。ディスプレイスメントマップかけた瓶が文字や模様が被写界深度によりボケて細部がつぶれたのは痛いところでした。
傷や指紋汚れも入れるためのラフネスの4kテクスチャは実際見た目に大きく変わるところではなく、今回は2kで十分なところです。
結果、魅せたい所を分散させてしまい全てが裏目に出たような感じです。
こちら、結果はかすりもしなかったわけですが、学ぶことは多かったです。
シンプルかと思ったけど液体の入ったガラス容器をリアルな情報量まで持っていくのって結構難しく、モデリングがしっかりできてないとガラスの厚みとか反射の角度とか一定のつまらない見栄えになるし、ノーマルでは反射が表現しきれないところもある。液体の細かい表現も必要。
レンダー設定でも、パスごとにノイズを確認したらガラスのようなtransmissionで制御してる項目はAAとtransmissionのパラメータにしか影響されません。そのためレンダリングの仕組みを理解せず脳死でDiffuseなんて上げてもノイズは一向に消えないということになるわけです。
ついでに言えばRay Depthがデフォ値のままだとSpecularが足りないとかなんだか暗いぞとかなるし、原因を特定して仕組みを学べる。実は良い題材なのかもしれません。
タイポグラフィについて
左側のように真ん中にレイアウトしてしまった場合、視線が中心により過ぎてバランスが悪いのはもちろん、左側のボケだけが目立ってしまうのでバランスが悪いですね。
右側のように被写界深度のボケたスペースにタイポグラフィを入れるのは文字の可読性が上がり文字が映えたり、スペースの有効活用にGoodです。
赤〇を付けたようにスペースを均等に取ると綺麗に見えます。
左側のようにひとまとまりの文章の場合行間が空きすぎてしまっているのと、下の矢印の方が狭くなっているのはバランスが悪く見栄えがしません。
右側のように行間を狭く読みやすく配置しましょう。また、左右のバランスを揃えるなら、「。」ではなく最後の文字で認識するのでそこを揃えましょう。
そしてキャッチコピーを読ませたいなら意識すべき点として日本人なら日本語で書くことは割と大事。
我々は日常的にたくさんのポスターを目にしてきます。日本人の英語コンプレックスは酷いもので普通に読むならスルーしてしまうものです、英語はデザインとしてならいいですが、読ませる文章ということなら基本的には人の目にあまり留まらないということを意識するのがいいかもしれません。
……実は一番の失敗はコピーが合ってないということかもしれませんね。
ということで次回こそArnoldのお話が出来ればいいなと思います。以上!